カテゴリー: ‘相続について’

「相続」に関する最近の話題。

2012-08-11

最近,増税の問題に関連して,週刊誌などで「相続」が大きく取り上げられています。

この「相続」に関する問題には,実は税務と法務という性質の異なる2つの側面があります。

【税務と法務のちがい】

① 相続に関する税務とは,相続税が課税されるのか,相続税が課税されるとしたら,いくら納税しなければなないのかという問題で,まさに,昨今の相続税の増税に関する話題に直接関係する問題です。

② 相続に関する法務とは,故人の相続財産について,誰が,何を,どのくらい承継するのかについての問題です。

①相続に関する税務とは,対国との関係で税金をいくら納めるのかの問題,②相続に関する法務とは,親や兄弟などの法定相続人とされる親族との関係で遺産について,誰が,何を,どのくらい受け継ぐのかの問題と言い換えることもできます。

①相続に関する税務は税理士の専門領域であり,②相続に関する法務は弁護士の専門領域です。つまり,税務と法務とでは,相談をするべき専門家が違うということです。

【税務と法務どちらが解決困難な問題か】

1 このどちらが解決困難な問題かということに関しては,個別の事案ごとに,税務対策の方が困難である事案もあり,一方で,税金の問題よりも法律上の困難な問題がいくつもある事案があったりで,突き詰めれば,ケースバイケースで,個別の事案ごとに異なるとしか言いようがありません。

2 最近の相続に関する雑誌の記事などに興味を持たれている一般の購読者の方々は,税金を納めたくない,仮に,相続税を納めることになったとしても,なるべく少ない金額で済ませたいというように,相続税に関して注意がいっている方が多いのではないかとも想像します。

しかし,日常の仕事で,「相続」に関する案件にかかわっている立場として,あえて一般論として言うのならば,実は,②相続に関する法務の方が,根深く解決困難な問題を抱えることが多いのではないかと考えています。

3 相続税の問題は,税金の対策をしなかった又は方法選択が不適切であったことにより,数百万円本来納めなくてもよい税金を納めなければならなくなった,さらには,遺産の不動産の一部を納税資金調達のために売却しなければならなくなったという問題として現実化します。

しかし,いくら増税があったとしても,故人が遺した遺産以上のものを税金として納めさせられることはありませんし,経済的な損得はありますが,国に対して納税を完了すれば解決する問題であるといえます。

4 一方,相続に関する法務の問題,つまり,親や兄弟との間で,遺産に関して,誰が,何を,どのくらい承継するのかを決めるという問題は,その承継を決める過程で,親族間で様々な話し合いが必要となります。

・たとえば,「何を」承継するのかという相続財産の範囲の問題での話し合いでは,もっと他の銀行に口座があるのではないかとの話が出て,故人の生前の面倒を見ていた子供が,銀行口座を隠しているのではないかということが問題となるかもしれません。

・また,どのくらい承継するのかという相続分の決定の問題の話し合いでは,長年,故人と同居をしてきた長男は,当然,他の子供は相続財産のほとんどを長男に譲ってくれるものと思い込んでいたところが,結婚以来,遠方で長年暮らしていた長女が法定相続分の主張をしてきたという問題が起こるかもしれません。

このような相続に関する親族の間の話し合いの中では,法律上,解決しなければならない問題が発生することはもちろんですが,親族間ゆえの感情的な問題も発生することが十分考えられます。

そして,法律的な問題に加えて,感情的な問題が発生してしまうと,いつ,どのような形で解決するのかという解決の出口が全く見えなくなってしまう危険性も十分あります。さらに,仮に,相続問題が解決したとしても,解決後には親族間に深いわだかまりや,心に傷が残り,以前のような親族としての付き合いなどはとても望めない事態になることもあります。

このように,相続に関する法務の問題は,深刻化すると,決してお金には代えられない深い心の傷や人間関係の亀裂を生むことがあります。また,いつまで続くのか,そしてどのように解決するのかさえ分からない相続人間の争いに発展する危険性もあるのです。

5 弁護士が,関与することによって上記のような相続に関する法務の問題についての深刻な事態がすべて回避されるかというと,決して,すべてを回避できるわけではありません。

しかし,早期の段階で弁護士が関与することにより,法律的な整理ができた状態で,相続人は,誰が,何を,どのくらい承継するのかを決めることができ,法律的な整理ができていることで,相続人間の無用な摩擦が回避される可能性があることは事実です。

早い段階での弁護士の関与が有用という意味では,故人の生前の遺言書の作成から弁護士が関与することが,一つの弁護士の有用な関与の形であると思います。

一般のサラリーマンの方の中には,弁護士はもちろん税理士の知り合いもいないという方も多いと思います。そのよう方にとっては,弁護士と税理士の両方の専門家に相続の相談をすることは,とても,気が重いことかと思います。

当事務所では,相続についてご相談をしていただいた方が,相続税についての対策もお考えの場合には,提携をしている相続税の処理に精通した税理士と一体となって,相続に関する法務と税務の両方の解決に努める体制があります。

当事務所にご相談をいただければ,相続に関する法務と税務の問題は一度に対策を立てることができます。
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弁護士 野澤  渉
〒104-0061
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相続の法制度の根底にある基本的な考え

2012-06-30

相続に関して法律(民法)が定めている事項の根本には,どのような考えがあるのかというお話です。親族が亡くなり,相続問題に直面した時に,相続に関してのご自分の主張が,どのような考え方に支えられて認められているのかを知ることにより,「法律がそのようになっているからこのようになるんだ」という表面的な言い分より説得力が増しますし,ご自分の主張に自信が持てるようになるでしょう。

【故人の意思尊重】

故人に遺言がある場合には,残された親族(相続人)は,故人の遺言を無視することはできないでしょう。その意味で,相続に関する法律の定めの根底には故人の意思を尊重しようという基本的な考えがあることは否定できません。

【潜在的な共有財産の清算】

上記のように,故人の意思を尊重して相続に関する法律の規定が定められていることは確かです。

しかし,故人がどのような意思を持っていたかとは関係なく,配偶者は常に相続人であるとされています。さらに,配偶者の法定相続分は相続財産の半分(2分の1)以上のものというように,多くの相続分が認められています。

このような配偶者に関する法律の定めをみると,故人とともに生活を営み故人の相続財産の形成に貢献してきた者に対して,相続財産に対する潜在的な持分の清算を行おうという考えが相続に関する法律の基本にあるといえます。

【親族の生活保障】

このように,配偶者に関しては潜在的な持分の清算を相続で行おうという考えは適合しやすいといえます。しかし,まだ,年少の子など,必ずしも,故人の相続財産の形成に貢献していない者も法定相続人となっています。

このような相続財産の形成に貢献していない相続人に対しても相続が認められる法律の規定の基本には,相続によって故人の親族の生活を保障しようという考え方があるといえます。

また,一定範囲の相続人に,故人の意思によっても奪えない遺留分を認めていることからも,相続に関する法律の基本的な考え方には親族の生活保障があるといえます。

【権利関係の安定】

これまでは,故人にプラスの財産しかないことを前提にして法律の基本的な考え方をご説明してきました。しかし,故人にマイナスの財産つまり負債がある場合には,どのような考えを基本にして法律は定められなければならないでしょうか。

たとえば,相続人が数人いて,その中には資産家も含まれているにもかかわらず,親族の生活保障や故人の意思の尊重を理由にして,遺言で相続人のうち資産のない,むしろ,借金だらけの相続人の一人にのみ故人の負債をすべて相続させることが法律で認められたら,債権者は,結局,故人に対する債権を回収することができず大きな損失を負います。そして,このように,債務者が死亡して相続が起こったことにより債権者が大きな損害を被ることを認める法制度では,個人に対しては容易に融資をすることはできず,経済活動,取引活動は停滞することになります。

そこで,故人のマイナスの財産の相続に関しては,権利関係の安定的な処理がなされ,相続に伴って債権者が常に損害を被ることにならないようにすることを基本に考えなければならないといえます。

【多元的な考え】

このように,相続に関する法律の基本的な考え方は,一つの基本原則に集約することはできずに,【故人の意思尊重】【潜在的な共有財産の清算】【親族の生活保障】そして,【権利関係の安定】というように,様々な考え方が多元的に混在しているものだといえます。

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「相続」とは何なのか?

2012-06-23
ある人が亡くなった時に,「相続」が発生して,故人の親族は,時としてこの「相続」の問題で悩み,場合によっては親族の間の争いごとに発展することもあります。
 
この「相続」とは,そもそも,何を意味するものなのかについては,歴史的には「相続」とは,身分の承継であると考えられてきました。家督相続や当主の地位を継ぐといった時の考えの根底にあるのは,この身分を承継することをもって「相続」という考えです。
 
しかし,日本国憲法のもと,人間は生まれながらに自由であり平等であるという個人主義,自由主義を法の基本原則とするようになると,身分制度が否定され,承継するべき身分が存在しないことになりました。そこで,現在では,身分を承継することの一部分であった財産を承継することをもって「相続」と考えるようになりました。
 

従来は,故人が承継させるべき身分をそもそも有していない場合には,当該故人について,「相続」が問題となることはありませんでした。しかし,故人が成人の場合,財産がないということは,ほとんど考えられないことですから,現在の制度によると,亡くなった方が成人の場合,ほぼすべての方に,「相続」の問題が発生すると考えられます。
 
このように,現在の法制度における「相続」とは,財産の承継を意味するものです。そして,故人の財産について,誰に,何を,どのくらい承継させるのかをめぐる問題が,相続問題といわれるものということになります。
 
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