相続の法制度の根底にある基本的な考え

2012-06-30

相続に関して法律(民法)が定めている事項の根本には,どのような考えがあるのかというお話です。親族が亡くなり,相続問題に直面した時に,相続に関してのご自分の主張が,どのような考え方に支えられて認められているのかを知ることにより,「法律がそのようになっているからこのようになるんだ」という表面的な言い分より説得力が増しますし,ご自分の主張に自信が持てるようになるでしょう。

【故人の意思尊重】

故人に遺言がある場合には,残された親族(相続人)は,故人の遺言を無視することはできないでしょう。その意味で,相続に関する法律の定めの根底には故人の意思を尊重しようという基本的な考えがあることは否定できません。

【潜在的な共有財産の清算】

上記のように,故人の意思を尊重して相続に関する法律の規定が定められていることは確かです。

しかし,故人がどのような意思を持っていたかとは関係なく,配偶者は常に相続人であるとされています。さらに,配偶者の法定相続分は相続財産の半分(2分の1)以上のものというように,多くの相続分が認められています。

このような配偶者に関する法律の定めをみると,故人とともに生活を営み故人の相続財産の形成に貢献してきた者に対して,相続財産に対する潜在的な持分の清算を行おうという考えが相続に関する法律の基本にあるといえます。

【親族の生活保障】

このように,配偶者に関しては潜在的な持分の清算を相続で行おうという考えは適合しやすいといえます。しかし,まだ,年少の子など,必ずしも,故人の相続財産の形成に貢献していない者も法定相続人となっています。

このような相続財産の形成に貢献していない相続人に対しても相続が認められる法律の規定の基本には,相続によって故人の親族の生活を保障しようという考え方があるといえます。

また,一定範囲の相続人に,故人の意思によっても奪えない遺留分を認めていることからも,相続に関する法律の基本的な考え方には親族の生活保障があるといえます。

【権利関係の安定】

これまでは,故人にプラスの財産しかないことを前提にして法律の基本的な考え方をご説明してきました。しかし,故人にマイナスの財産つまり負債がある場合には,どのような考えを基本にして法律は定められなければならないでしょうか。

たとえば,相続人が数人いて,その中には資産家も含まれているにもかかわらず,親族の生活保障や故人の意思の尊重を理由にして,遺言で相続人のうち資産のない,むしろ,借金だらけの相続人の一人にのみ故人の負債をすべて相続させることが法律で認められたら,債権者は,結局,故人に対する債権を回収することができず大きな損失を負います。そして,このように,債務者が死亡して相続が起こったことにより債権者が大きな損害を被ることを認める法制度では,個人に対しては容易に融資をすることはできず,経済活動,取引活動は停滞することになります。

そこで,故人のマイナスの財産の相続に関しては,権利関係の安定的な処理がなされ,相続に伴って債権者が常に損害を被ることにならないようにすることを基本に考えなければならないといえます。

【多元的な考え】

このように,相続に関する法律の基本的な考え方は,一つの基本原則に集約することはできずに,【故人の意思尊重】【潜在的な共有財産の清算】【親族の生活保障】そして,【権利関係の安定】というように,様々な考え方が多元的に混在しているものだといえます。

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弁護士 野澤  渉
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